Three Months Journey.

アニメとか漫画とか小説とか、好きなものについて書きます

amazarashiをよく知らない人にほど【新言語秩序】を目撃してほしいというブログ

 

 

 

 

今日(2020年6月9日)20時からロックバンドamazarashiの二年前に開催されたライブを追体験する映像が配信されます。
追記:プレミア公開は終了しました。この動画6月16日の19:30まで視聴可能です。

これは、ライブという枠組みを超え、新しいエンターテイメントの形でもあり、それはより多くの人に目撃されることが、とても重要だと思っています。

どうか、amazarashiというバンドにそれほど興味がない人にも少しは興味を持っていただけるような、そんなブログになればいいと思い、これを綴ります。

 

 

 

朗読演奏実験空間 新言語秩序とは

 

2018年11月16日。

東京喰種の主題歌『季節は次々死んでいく』や僕のヒーローアカデミアの主題歌『空に歌えば』やどろろの主題歌『さよならごっこ』で知られているロックバンドamazarashiの記念すべき初めての日本武道館ライブで突如として決行したコンセプトライブ

 

形式上はライブとしているが体感的には、どちらかというと『映画』に近いと感じる、
歌によって構成されているので『ミュージカル』と言い換えてもいい。

ロックバンドにとってビートルズが初めて日本で演奏した日本武道館は特別な場所であり、そこで開催されるライブはそのバンドにとって『メモリアル』なものであるのが常であり、その殆どが人気曲や自身を象徴する楽曲で構成される。

しかしamazarashiはライブでほぼ毎回演奏する人気楽曲や思い入れが深い楽曲などをすすんでセットリストから除外し、あるテーマに沿ってライブが作り上げられた。

これはamazarashiが自分たちのアーティスト性よりも、このライブで、空間で、表現したいことがあり、そのために自分たちを表現者としての役割よりも演者(Actor)としてステージに立つことに徹したライブなのだ。

 

さて、このライブの異質さを語るにはまずamazarashiの普段のライブの様子を語らなければならない。


amazarashiはVo.Gtの秋田ひろむKeyの豊川真奈美の二人を中心に構成されるロックバンドであり、自らの素性や顔を隠し、音楽を主体とする、一種の覆面バンドである。

ライブでは必ずステージと観客席が紗幕(カーテン)で隔たれており、その向こうにシルエットとして演奏するメンバーが見える形で行われる。

その紗幕にはプロジェクターで歌詞や映像が投影され
彼らの音楽を視覚的にも楽しめるようになっている。

 

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さて、この新言語秩序言葉のディストピアの物語が描かれる。つまり、ストーリーが存在する。
ディストピア物語では一般的に権力や大企業、AIなどの大きな存在に人間が支配されることが多いが、

秋田ひろむがこの新言語秩序で問いかけているのは

一般市民同士の発言の相互監視社会についてだ。

現代のSNSで日々行われている言葉狩りや表現に対する狭量さをモチーフにしている。

 

つまり
人々が相互監視によって相応しくない言葉を糾弾していくことにより、
相応しいとされる綺麗な言葉しか使えなくなってしまった世界の物語だ。

 

 

 

さて、この世界観を理解するためにいくつかの重要な単語が存在するので簡単に解説する。

 

【テンプレート言語】

多種多様な他者を傷つけることがない何億通りという状況に合わせた会話のテンプレートのアーカイブ、それをテンプレート言語と呼ぶ。
そこに含まれていない。白痴、あばずれ、キチガイなどの相応しくない自由で醜悪な発言はテンプレート逸脱とされ、社会を騒乱をもたらす危険があるため警察並びに新言語秩序の取締り対象となる。

テンプレート言語は凶悪犯罪だけでなく、セクハラ、パワハラなど日常に潜む言葉のハラスメントを予防し社会の生産性をあげる画期的な発明である、という研究結果が発表されると、

『新言語秩序』批判はタブーである風潮まで達した。

 

 

【新言語秩序】

テンプレート言語を取り締まる自警団。
当初はネット上のSNS過激な発言などに注意喚起を促す程度の小さな団体だったが、政府と世論の後押しを受け多くのボランティアが参加する巨大な組織として強い影響力を持ち日本中で活動している。

インターネット、ラジオ、漫画、小説、映画、音楽など、言語表現が用いられるあらゆる媒体に対して検閲を行いテンプレート逸脱活動に該当するものはあらゆる手段を使って処分を行う。

 

 

【言葉ゾンビ】

テンプレート言語の強要を自由への侵犯と見なし、世間への抵抗活動としてあえてテンプレート逸脱活動を行う人間たちを、新言語秩序は軽蔑をこめて言葉ゾンビと呼ぶ。

最近ではテンプレート逸脱者たちも言葉ゾンビを自称し始めた。

 

 

【言葉殺し】

言葉ゾンビたちが新言語秩序を呼ぶときの蔑称
言葉によって人間はつくられていると信じる言葉ゾンビたちにとって自由な言語活動を検閲する新言語秩序は殺人者に等しい。

 

 

【テンプレート言語矯正プログラム”再教育”

新言語秩序が言葉ゾンビたちに対して行う拷問じみた取り調べの一つ。
警察と新言語秩序が開発したヘッドギアを対象の頭に取り付け、同時に薬物などを併用することで、テンプレート言語を潜在意識に刷り込ませ自由な発言ができなくなるまで精神を破壊する。

 

 

このライブは物語であるからこそ、そこにはもちろん登場人物も存在する。

ライブでは秋田ひろむが書き下ろした小説の朗読が曲間に挟まれ、これらの単語や登場人物を把握できるようになっている。
ちなみにライブをより体感するために配信されているアプリをDLするとこれらの小説を全て読むことができる。



実多-mita-

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新言語秩序の熱心な活動家の女性。幼い頃の凄惨な経験により『言葉を殺さなければならない』という想いからテンプレート逸脱を繰り返す言葉ゾンビたちを追っている。

 

 

希明-kia-

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言葉ゾンビたちにとってのカリスマ的存在、率先し新言語秩序に抵抗し自由な言葉を取り戻そうとする青年。『現政権はまるで末期のカルト集団だ』と叫んでいたライブハウスで実多に追い詰められ捕まり”再教育”を施される。

 

 

amazarashi

自由な表現で時には鋭い言葉を使う楽曲を発表し続けるロックバンド。当然そのライブも新言語秩序の検閲対象となり歌詞並びに表現を制限され、原曲の面影を残さないほどに改変させられてしまう。

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ライブ参加者

言葉ゾンビたちの精鋭が開発した新言語秩序の検閲を掻い潜りその検閲を解除することができるアプリケーションを駆使し新言語秩序への抵抗運動としてamazarashiのライブに参加する。

これはつまりライブを見ている私たちのことである。

 

 

ライブ本編では、いつもなら紗幕に正常に表示されるはずの歌詞が新言語秩序の検閲により消されてしまう。曲の本来の自由な姿を取り戻すためにアプリケーションを開いたスマホをステージにかざし、検閲に抵抗し、言葉を取り戻していく。

楽曲によってはYouTubeにアップロードされているamazarashiのMVがどんどん消されていく光景が映し出されたり、Twitterでのテンプレート逸脱行為がどんどん修正されていく場面も映る。

この抵抗運動に参加している私たちがライブ本編それだけでなく、世界の成り行きを見届けることになる。体感形のエンターテイメントなのだ。

 

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さて、ここまで読んで興味を持ってくれた人たちは是非アプリをDLして20時に共にライブを見て欲しい。

 

 

 



しかしおそらく、どうしてもそれでも乗り切れない人もいるとは思う。

ディストピアディストピアとして描く過程で必ず強い思想が含まれ、様々な理想が渦巻く現代において、共感できなければ、それは苦痛であるからだ。

もちろんamazarashiをそのような部分で忌み嫌う人たちがいるのは確かだ。

 

 

 


この物語をどう受け取るかは個人個人の自由であり、言葉殺しが是か否かを判断するのも個人です。

でもそれら個々の意思も内包したのがこのライブです。

どうか、その結末を目撃してください。

これは、政権批判でも、シュプレヒコールでも、現代の凄惨さを嘆くドキュメンタリーでもなく、新しいエンターテイメントの可能性です。


好きなアニメ、映画、本、漫画、そして音楽。
そういうものの積み重ねで出来上がっている人たち全員に、目撃して欲しい、新しい表現の形です。

この物語はフィクションであり、実在する事件、団体、人物、そしてあなたにも全く関係ない、でも心の奥底に何か熱いものを感じる。そんな、たった一夜のライブです。


その先にある、何かを感じてくれたら嬉しいです。

 

 

全人類、見てください。全人類とは、全人類です。

 

 

朗読演奏実験空間“新言語秩序”  コメント

「新言語秩序」プロジェクトはリスナー皆さんで作る参加型のプロジェクトです。僕らは今までの集大成である言葉と映像と光を駆使しメッセージを届けようと試みます。そこに皆さんの意思が介入し、一つの結末へと向かいます。

傷つけられた言葉。嬉しくて嬉しくてたまらなかった言葉。そういう『言葉』の積み重ねで僕らは形作られています。是非この抵抗運動に参加して、この言葉達の行く末を見届けてください。


—— amazarashi 秋田ひろむ (Vo/Gt)

 

 

朗読演奏実験空間“新言語秩序” Ver. 1.01 コメント

『新言語秩序』は、一般市民同士の相互監視によって言葉が奪われた社会を描いています。
このテーマが時を経て、より深刻に感じられてしまう今の社会のムードが悲しいです。
amazarashiは希望を歌ってきましたが、それは人間の良心に依拠した僕の幻想にすぎません。現実は僕の想像よりずっと無情だったように思います。
この作品を通して、心の中に自問自答や葛藤のようなものが芽生えてくれたら、それが巡り巡ってどこかの誰かの希望になりえるのではないかと、そうであってほしいと願っています。

―― amazarashi 秋田ひろむ(Vo/Gt)

 

 

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